<韓国:医療>パーキンソン病の新たな原因が明らかに
韓国科学技術研究院(KIST)の中島龍一博士とKAIST(韓国科学技術院)生命科学科のキム・デス教授らの研究チームが、脳から分泌される抑制性の神経伝達物質が、運動神経をむしろ過剰に興奮させることによって、パーキンソン病特有の運動障害を引き起こす事を明らかにしました。
パーキンソン病は、アルツハイマー病と共に世界的に多く発生事例のある神経変性疾患ですが、まだ適当な治療方法がない状況です。
脳の神経伝達物質であるドーパミンが正常に分泌されず、手のブレや筋肉のこわばり、ゆっくりとした行動、姿勢の不安定などのような症状が現れます。
パーキンソン病発生の原因については、1980年代に米国の神経科医マロン・デロング博士が提示した「運動信号の抑制の理論」が定説として受け入れられていました。この理論は、ドーパミンが減少すると、脳から分泌される伝達物質が運動神経を抑制して運動機能が大幅に落ちると説明しています。
このために、ドーパミンの分泌を人為的に増やすのがパーキンソン病の唯一の治療法として知られていました。しかし、この学説は、パーキンソン病によって抑制されているはずの運動神経がどうして手ブレのような症状を引き起こすのかなど、様々な症状を十分に説明していないという指摘を受けていました。
研究チームは、運動神経が抑制された状態を人為的に再現するため、マウスの脳の基底核から視床に投射する抑制性神経を光で選択的に刺激したところ、運動神経が最初は抑制され、後に急激に興奮状態に変わることが分かりました。
研究チームは、運動神経が過度に興奮している場合、筋肉が硬直したり、震えたりする症状が現れると説明しており、運動神経の興奮状態を抑制すると震えと筋肉のこわばりなどの症状が消えました。
キム教授は「ドーパミンがなくても運動神経の興奮状態を薬物などで抑制すると、パーキンソン病の症状を軽減することができるという手がかりを得た」とし、「ドーパミンを分泌する脳細胞が失われたパーキンソン病患者の治療法開発に乗り出す」と述べています。
中島博士は、「日本人として、この韓国発の研究成果に関われたことを嬉しく思います。これは、普段ブレーキの役割をしてくれている抑制性の神経細胞が、むしろ運動神経系の過剰興奮の引き金になるという興味深い知見です。この研究では、オプトジェネティクスという手法を用いて、行動中のマウスの脳の中の、特定の神経回路を選択的に刺激しています。オプトジェネティクスによって、脳の中におよそ1000種類あると言われている様々な神経細胞を自由にコントロールしたり、その活動を観察できるようにすることができるため、今や脳科学研究に欠かせない重要なツールとなっています」と述べています。
今回の研究成果は「Neuron」2017年8月30日号に掲載されました。
(出所:韓国・朝鮮日報、2017年9月21日付け記事の内容を基に中島龍一博士のご教示を加筆)
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